化学魔の還元

酸塩基編6.酸や塩基のイオン積


前章では純粋な水の電離を考えてきましたが、今度は水溶液について考えてみます。

強酸の電離とイオン濃度

まず0.10mol/lの塩酸について考えてみます。これは強酸ですので、完全に電離して水素イオンと塩化物イオンに分かれます。
          HCl→H++Cl-
      はじめ: 0.10   0     0 〔mol/l〕
      電離後:  0  0.10   0.10〔mol/l〕
こうして0.10mol/lの塩酸には0.10mol/lの水素イオンが溶けていることが分かります。

さて、このとき水酸化物イオンの濃度[OH-]はどうなっているでしょうか。
塩酸は、塩化水素という気体の水溶液でしたね。ということは水が含まれているわけです。ということは水の電離があるはずです。
2O⇔H++OH-
純水の場合は、この水の電離によって1.0×10-7〔mol/l〕という濃度に保たれていました。
今回は塩酸の影響によって、[H+]が文字通りケタ違いに増えてしまいました。ということはイオン同士が衝突して水に戻る反応が活発になるはずです。
2O→H++OH-
++OH-⇒H2
そうすると、ただでさえ[OH-]は1.0×10-7〔mol/l〕しかないのに、段違いの量のH+が入ってきてはすべて反応しOH-がなくなってしまいそうな気がしますが、そうすると今度は水の電離が進んでOH-が供給され、最後は平衡状態になります。
水溶液である限り、極微量ながらもOH-は存在するのです。

その濃度を求めますが、この時も水のイオン積を利用します。水のイオン積とは、
w=[H+][OH-]=1.0×10-14〔mol2/l2
のことでしたね。前述のとおり、これは酸や塩基の影響で水溶液の[H+]や[OH-]が変わった状態でも成立します。温度が一定で、右辺と左辺の兼ね合いを考えている限りは、平衡定数は一定なのです。
塩酸の水溶液中でも、水のイオン積は一定なので
                   Kw   1.0×10-14
             [OH-]=――――=――――――――=1.0×10-13〔mol/l〕
                  [H+]     0.10
したがって0.10〔mol/l〕塩酸の水溶液中では、[H+]=0.10〔mol/l〕で、[OH-]=1.0×10-13〔mol/l〕であることが分かります。


強塩基の電離とイオン濃度

では塩基の場合ではどうでしょうか。
濃度を変えて、0.010mol/l水酸化ナトリウム水溶液があるとします。
これは強塩基ですので、完全に電離してナトリウムイオンと水酸化物イオンに分かれます。
          NaOH→Na++OH-
      はじめ: 0.010    0     0 〔mol/l〕
      電離後:  0   0.010   0.010〔mol/l〕
ですから0.010mol/lの水酸化ナトリウム水溶液には、0.010mol/lの水酸化物イオンOH-が含まれていることが分かります。
では今度は水素イオンH+の濃度を考えてみます。やはり先ほどと同じように、水の電離を考慮する必要があります。
2O⇔H++OH-
純水の場合は、この水の電離によって1.0×10-7〔mol/l〕という濃度に保たれていました。
こんどは水酸化ナトリウムの影響によって、[OH-]が文字通りケタ違いに増えてしまいました。ということはイオン同士が衝突して水に戻る反応が活発になるはずです。
2O→H++OH-
++OH-⇒H2
そうすると、ただでさえ[H+]は1.0×10-7〔mol/l〕しかないのに、段違いの量のOH-が入ってきてはすべて反応しH+がなくなってしまいそうな気がしますが、やはり先ほどと同じように水の電離が進んでH+が供給され、最後は平衡状態になります。
水溶液である限り、極微量ながらもH+は存在するのです。

その濃度を求めますが、この時も水のイオン積を利用します。水酸化ナトリウムの水溶液中でも、水のイオン積は一定なので
                   Kw   1.0×10-14
             [H-]=――――=――――――――=1.0×10-12〔mol/l〕
                  [H+]     0.010
したがって0.010〔mol/l〕水酸化ナトリウム水溶液中では、[OH-]=0.010〔mol/l〕で、[H+]=1.0×10-12〔mol/l〕であることが分かります。

弱酸・弱塩基の電離とイオン濃度

今度は弱酸について考えてみます。
酢酸」CH3COOHは次のように電離します。
CH3COOH⇔H++CH3COO-
しかし酢酸は弱酸ですから、完全には電離しません。濃度がC〔mol/l〕の酢酸について電離度をαとおくと、
           CH3COOH ⇔ H++CH3COO-
       はじめ:   C      0   0 〔mol/l〕
       変化量:  −Cα   +Cα +Cα 〔mol/l〕
       電離後: C(1−α)   Cα  Cα 〔mol/l〕 
という感じになります。具体的な値を入れてみましょうか。0.10mol/lの酢酸について、だいたいα=0.01くらいです。これを代入すると
           CH3COOH ⇔   H+ + CH3COO-
       はじめ:   0.10       0      0   〔mol/l〕
       電離後: 0.10×0.99    0.10×0.01  0.10×0.01 〔mol/l〕 
したがって[H+]=0.10×0.01=1.0×10-3〔mol/l〕となります。
この時もやはり水のイオン積から、[OH-]=1.0×10-11〔mol/l〕ということが分かります。

これはアンモニア水溶液などの弱塩基でも同様です。