化学魔の還元

酸塩基編1.アレニウスの定義

電子のやり取り=酸化還元反応をうまく使えば「電流」が取り出せます。

すべての始まりは電池でした。

1800年、ボルタは電池を発明し、その後ダニエルによって改良されます。
実験に必要な電力を、当時としては十分に安定的に得られるようになり、電気化学の基礎が始まりました。電気分解の実験も盛んに行われ、1833年にはファラデーの法則が発見されます。
このように革命的な電池の発明によって、電気化学という化学の一分野が確立され、発展していきました。


しかし意外なことに「イオン」そのものに対する理解はまだ浅いままでした。例えば、
  • 電子は当時まだ発見されていなかった()

  • でもとりあえずなんか流れてるぞって事は分かったので、当時の科学者は感覚的に「電流はプラスからマイナスに流れる」と定めました。
    ちなみに電子は1897年にトムソンが発見しました。

  • NaClなどイオン性物質を水に溶かした時に、いつイオンになるのか分かっていなかった

  • さまざまな意見があったようですが、「水に入れた時はまだNaClの形、電圧をかけて電気の力を与えるとイオン化する」という説が主流だったようです。NaとClはプラスとマイナスで引き合っているのに、勝手に離れたりはしないだろうと思っていたのでしょう。

  • 酸性・塩基性の性質は知られていたが「酸とは何か」「塩基とは何か」を知らなかった

  • つまり「酸性の性質を示す原因」についての議論は混乱状態にあったといえます。

1887年、スウェーデンのアレニウスは次のような電離説を提唱し、当時の常識を覆しました。


アレニウスの電離説
「電解質は、水溶液中において、電場の有無にかかわらずイオンの状態で存在している」


アレニウスは、水に溶かしてイオンになることを電離と呼び、水に溶かすとイオンになる物質を電解質、そうでないものを非電解質と名づけました。
さらに電解質を、よく電離する強電解質と、あまり電離しない弱電解質に大別しました。
例えばNaClは、水溶液中で次のように電離しているとしました。
NaCl→Na+Cl-
denri1.gif(1953 byte)
電離説は「プラスとマイナスで引き合っている物質が、勝手に2つに分かれるはずがナイ!」という考え方から受け入れられませんでしたが、後に実験により証明されて認められました。


さらに彼は電離説と同時に、当時混乱していた酸塩基に関する定義も定めました。
強酸として有名な塩酸HCl、硝酸HNO3は、水溶液中で次のように電離します。

HCl→H+Cl-
ensandenri.gif(2484 byte)
HNO3→H+NO3-
shosandenri.gif(3450 byte)
また硫酸は次のように2段階で電離します。
H2SO4→H+HSO4-
ryusandenri1.gif(3787 byte)
HSO4-→H+SO42−
ryusandenri2.gif(3299 byte)
そして酸性を示す原因となる物質は水素イオンHとしました。
また強塩基の代表である水酸化ナトリウムNaOH、水酸化カルシウムCa(OH)2は、水溶液中で次のように電離します。
NaOH→Na+OH-
Ca(OH)2→Ca2++2OH-
そして塩基性を示す原因となる物質は水酸化物イオンOH-としました。

このようにアレニウスは、酸性・塩基性の原因物質を明確化し、酸と塩基の定義を提唱しました。
これがアレニウスの定義です。


アレニウスの定義
酸(acid):水に溶けて電解し水素イオンHを出すもの。
塩基(base):水に溶けて電解し水酸化物イオンOH-を出すもの。
また、強電解質や弱電解質と同様にして、よく電離してHやOH-をたくさん出すものを強酸・強塩基とし、あまり電離せず少ししかHやOH-を出さないものを弱酸・弱塩基としました。



中和反応についても明確な定義を定めました。

中和反応酸と塩基が反応して水と塩が生成する反応

中和反応の本質は水素イオンHと水酸化物イオンOH-が次のように反応して水H2Oが生成することとしたのです。
H+OH-→H2O
そしてその時の副産物が「塩」であると定めました。

このような、水素イオンHと水酸化物イオンOH-による定義は有効かつ画期的であったため、広く認められました。




注意!!
「強い」「弱い」って漢字が似ていて分かりにくいことがあるので、このサイトでは次のように表記することがあります。
強酸→strong acid→sA
強塩基→strong base→sB
弱酸→weak acid→wA
弱塩基→weak base→wB
(正式な表記ではないので、学校や試験では使わない方がいいです。)


酸性や塩基性の本質は水素イオンHと水酸化物イオンOH-だということが分かったので、酸や塩基は、放出できるH・OH-の数によって分類することが出来ます。

1価の酸:塩酸HCl、硝酸HNO3、酢酸CH3COOHなど
2価の酸:硫酸H2SO4、シュウ酸(COOH)2、硫化水素H2Sなど
3価の酸:リン酸H3PO4など

1価の塩基:水酸化ナトリウムNaOH、水酸化カリウムKOH、アンモニアNH3など
2価の塩基:水酸化カルシウムCa(OH)2、水酸化マグネシウムMg(OH)2など
3価の塩基:水酸化アルミニウムAl(OH)3など

酢酸はHを4つ持っていますが、放出できるのはCOOHの先についているHだけです。それ以外のHは水に溶かしても電離しないので、価数には数えません。
またアンモニアNH3Hを3つ持っていますが、実際には水溶液中で水と反応して水酸化物イオンOH-を1つ放出するので、1価の塩基の扱いになります。

NH3+H2O→OH-+NH4

この2つ以外は、見た目で価数がわかります。


2/10追加
二酸化炭素CO2も次のように水と反応して酸性を示します。

CO2+H2O→H2CO3

出来た物質は炭酸と呼ばれ、2価の弱酸です。これも覚えておきましょう。