中和したあとの水溶液の液性はどうなっているのでしょうか。
「中和したんだから中性にきまっているはず!」と最初は思うかもしれませんが、実は中性とは限りません。中和後の水溶液の液性は、中和して出来た塩の液性によって変わります。
出来た塩の液性は、次のように判断できます。
正塩の液性
sAとsBの塩:中性
sAとwBの塩:酸性
wAとsBの塩:塩基性
注意1:酸や塩基の価数は関係しない。
注意2:酸性塩や塩基性塩はこの方法では判別できない。
sAとsBの塩:中性
sAとwBの塩:酸性
wAとsBの塩:塩基性
注意1:酸や塩基の価数は関係しない。
注意2:酸性塩や塩基性塩はこの方法では判別できない。
簡単ですね。
強いもの同士の場合は、中性。
強弱に差があれば、強いほうの液性となります。
8章で取り上げた中和反応を見てみましょう。
まず塩酸と水酸化ナトリウムの反応です。
HCl+NaOH→NaCl+H2O
この反応では強酸と強塩基が反応したので、得られた塩化ナトリウムは中性を示します。硝酸と水酸化カルシウムの反応です。
2HNO3+Ca(OH)2→Ca(NO3)2+2H2O
この反応も強酸と強塩基の反応なので、得られた硝酸カルシウムは中性を示します。このように、出来た塩の液性は、酸や塩基の価数には関係しません。
二酸化炭素と水酸化ナトリウムではどうでしょうか。
CO2+2NaOH → Na2CO3+H2O
もしくは
H2CO3+2NaOH → Na2CO3+2H2O
の反応です。ここでは弱酸と強塩基の反応なので、得られた炭酸ナトリウムは塩基性を示します。
次は塩酸とアンモニアの反応です。
NH4+HCl → NH4Cl
今度は強酸と弱塩基の反応なので、得られた塩化アンモニウムは酸性を示します。このように正塩の液性を判別することが出来ます。
ではどうしてこのように液性が変わるのでしょうか。
それぞれの場合に分けて説明していきます。
弱酸と強塩基の場合
酢酸と水酸化ナトリウムの場合を例にとって見ます。中和完了後に出来た塩はCH3COONaです。どちらもイオンの状態で水中に存在します。
ですがCH3COO2-は次のように反応してCH3COOHに戻ってしまいます。
CH3COO-+H2O → CH3COOH+OH-
どうしてこのようなことが起きるのかというと、CH3COOHの電離度が1より著しく小さいからです。
一見、関係がなさそうですが、弱酸というのは電離してイオンの状態でいるよりも電離しない方が安定な酸のことです。そのため、上記の反応のように水分子(当然大量にある)と衝突すると、イオンの状態より元に戻るほうが安定なので、水分子からH+を奪い取って元に戻ってしまいます。
このとき、結果的にOH-が残ってしまうのです。
対してNa+の方が「水分子とぶつかってOH-を引き抜く」という反応はたまにしか起こりません。
なぜなら強塩基というのは電離しない状態でいるより電離してイオン化したほうが安定な塩基のことだからです。
こうして酢酸ナトリウムは塩基性を示します。
強酸と弱塩基の場合
塩酸とアンモニアの場合を例にとって見ます。
中和完了後に出来た塩はNH4Clです。どちらもイオンの状態で水中に存在します。
ですがNH4+は次のように反応してNH3に戻ってしまいます。
NH4++H2O → NH3+H3O+
どうしてこのようなことが起きるのかというと、先ほどと同じくNH3の電離度が1より著しく小さいからです。
これもまた同様に弱塩基というのは電離してイオンの状態でいるよりも電離しない方が安定な塩基のことです。そのため、上記の反応のように水分子(当然大量にある)と衝突すると、イオンの状態より元に戻るほうが安定なので、水分子からOH-を奪い取って元に戻ってしまいます。
このとき、結果的にH+が残ってしまうのです。
対してCl-の方が「水分子とぶつかってH+を引き抜く」という反応はたまにしか起こりません。
なぜなら強酸というのは電離しない状態でいるより電離してイオン化したほうが安定な酸のことだからです。
こうして塩化アンモニウムは酸性を示します。
強酸と強塩基の場合
塩酸と水酸化ナトリウムの場合を例にとって見ます。
中和完了後に出来た塩はNaClです。どちらもイオンの状態で水中に存在します。
この場合、Na+もCl−もイオンの状態のほうが安定なので、水分子とぶつかってももとに戻ったりする反応はたまにしかしません。
こうして塩化ナトリウムは中性を示します。
このようにして見てきたイオンが水からH+やOH−を引き抜いてもとに戻る反応を塩の加水分解といいます。
塩の加水分解
弱酸や弱塩基の塩が、水と反応してもとの酸や塩基に戻ること。
弱酸や弱塩基の塩が、水と反応してもとの酸や塩基に戻ること。
酸性塩や塩基性塩の場合はどうでしょうか。
例えば炭酸水素イオンHCO3-は加水分解して次のように反応します。
HCO3-+H2O → H2CO3+OH-
その一方で、まだ電離してH+を放出することも出来ます。
HCO3 → CO32-+H+
この反応のどちらが強いかで、塩の液性が決定します。その強さは物質によってまちまちなので、酸性塩や塩基性塩の液性は一概には決められないのです。