化学魔の還元

電池電解編9.水の電気分解

これさえマスターすればあとは怖いものなし!

イオン化傾向のおさらい

さて電気分解では必須の「水の電気分解」を考えましょう。
まず酸塩基編でも少し触れましたが、水は電気を通しにくい物質です。なので水の電気分解をするときはイオン性物質を溶かして電気が通りやすいようにします。しかし溶けている物質が水よりもイオン化傾向が小さかったら、水ではなく溶質が反応してしまいます。
もう一度イオン化傾向を確認しておきましょう。



陰イオンのイオン化傾向
NO3-・SO42-・OH-(H2O)・Cl-・Br-・I-
「昇竜の水は遠州洋にあり」と覚える。イオン化傾向の小さい順に発生。NO3-・SO42-は決して電解されない。


金属イオンのイオン化傾向
K・Ca・Na・Mg・Al・Zn・Fe・Ni・Sn・Pb・(H2)・Cu・Hg・Ag・Pt・Au

つまりOH-やH2よりもイオン化傾向の小さいイオンが溶けている場合は、そちらが反応します。
逆に言うとOH-やH2よりもイオン化傾向の大きいイオンばかりの時は水の電気分解が起こります。


ここでは「希酸の電気分解」「希アルカリの電気分解」「中性溶液の電気分解」の二種類を考えることにします。

希酸の電気分解

ここでは希硫酸を扱います。

1、イオン確認
水溶液中のイオンをすべて書き出します。
陽イオン: +
陰イオン: OH- SO42-
2、生成物確認
次に析出、発生する物質を考えます。
イオン化傾向の小さい順に追い出されますから
陽イオンでは+、陰イオンではOH-が反応します。
硝酸イオン・硫酸イオンは決して電解されません。このことも頭に入れておきましょう。


ところがここは希酸を仮定しているのでOH-は10-14mol/lオーダーでしか存在していません。つまり無いのと同じだとみなせます。そのため、実際の反応は水分子が起こしている、と考えます。
したがって結局、陰極ではH+が反応してH2が発生し、陽極ではH2Oが反応してO2が発生します。


3、半反応式
各極板でのイオン反応式(半反応式)を書きましょう。
あとは出入りする電子の数を合わせるのですが、陽極は電子を抜かれるので電子は右辺、陰極は電子を与えるので電子は左辺です。
また水分子の反応はH+を補います。
これらを踏まえると
陽極:2H2O→O2+4H+4e-
陰極:2H++2e-→H2
このような半反応式が書けます。
この式は必ず暗記してください。


4、全体の反応式
それでは全体の反応式を書きあげましょう。
半反応式から電子e-が消えるように調整して足します。この場合は
2H2O→2H2+O2
これで完了です。
4e-は消えてしまいましたが、必ずどこかにメモしておきましょう。


希アルカリの電気分解

ここでは希水酸化ナトリウム水溶液を扱います。

1、イオン・極板確認
水溶液中のイオンをすべて書き出します。
陽イオン: Na+ +
陰イオン: OH-
次に極板は
陽極板:白金、陰極板:白金
を用いることにします。
2、生成物確認
次に析出、発生する物質を考えます。
この場合も陽イオンでは+、陰イオンではOH-が反応します。
イオン化傾向はじめの5つは決して電解されません。このことも頭に入れておきましょう。


ところがここは希アルカリを仮定しているのでH+はほとんど存在していません。そのため、実際の反応は水分子が起こしている、と考えます。
したがって結局、陰極ではH2Oが反応してH2が発生し、陽極ではOH-が反応してO2が発生します。


3、半反応式
各極板でのイオン反応式(半反応式)を書きましょう。
あとは出入りする電子の数を合わせるのですが、陽極は電子を抜かれるので電子は右辺、陰極は電子を与えるので電子は左辺です。
また水分子の反応ではH2OからH+が抜かれた後はOH-が残ります
これらを踏まえると

陽極:4OH-→O2+2H2O+4e-
陰極:2H2O+2e-→H2+2OH-

このような半反応式が書けます。
この式は必ず暗記してください。


4、全体の反応式
それでは全体の反応式を書きあげましょう。
半反応式から電子e-が消えるように調整して足します。この場合は

2H2O→2H2+O2

これで完了です。
4e-は消えてしまいましたが、必ずどこかにメモしておきましょう。


中性溶液の電気分解

ここでは硝酸ナトリウム水溶液を扱います。
(食塩水も中性ですが、これは後で扱います。)

1、イオン・極板確認
水溶液中のイオンをすべて書き出します。
陽イオン: + Na+
陰イオン: OH- SO42-

次に極板は
陽極板:白金、陰極板:白金
を用いることにします。

2、生成物確認
次に析出、発生する物質を考えます。
この場合も陽イオンでは+、陰イオンではOH-が反応します。
硝酸イオンや硫酸イオン、イオン化傾向はじめの5つは決して電解されません。このことも頭に入れておきましょう。


ところがここは中性溶液を仮定しているのでH+もOH-も10-7mol/lオーダーでしか存在していません。つまり無いのと同じだとみなせます。そのため、実際の反応はどちらも水分子が起こしている、と考えます。
したがって結局、陰極でH2Oが反応してH2が発生し、陽極でもH2Oが反応してO2が発生します。

3、半反応式
各極板でのイオン反応式(半反応式)を書きましょう。
反応自体はさっきやったものと同じなので、これらを踏まえると

陽極:2H2O→O2+4H++4e-
陰極:2H2O+2e-→H2+2OH-

このような半反応式が書けます。
この式は必ず暗記してください。


4、全体の反応式
それでは全体の反応式を書きあげましょう。
半反応式から電子e-が消えるように調整して足します。この場合は

2H2O→2H2+O2

これで完了です。
4e-は消えてしまいましたが、必ずどこかにメモしておきましょう。

水の電気分解のまとめ

この3例を考えてみましたが、ここに出てきた式は全て暗記してしまってください。
半反応式をまとめてみます。

                                                                   

酸性

中性

塩基性

陽極

2H2O→O2+4H++4e-

4OH-→O2+2H2O+4e-

陰極

2H++2e-→H2

2H2O+2e-→H2+2OH-