化学魔の還元

電池電解編3.ダニエル電池

ボルタ電池を改良し、実用化に成功しました。

ダニエル電池の特徴

1836年、イギリスのダニエルが考案した電池です。
ボルタ電池は、前回も指摘したとおり問題が山積みで、とても実用に堪えうるものではありませんでしたが、「イオン化傾向の差を電気エネルギーとして取り出す」という基本方針だけは引き継いで改良されました。
ダニエル電池も、極板に亜鉛と銅板を使うのは引継ぎました。電解液には、陽イオンに水素イオンH+を使うと水素が発生するので、硫酸銅水溶液硫酸亜鉛水溶液を用います。


ダニエル電池の構成は次のように表されます。

(−)Zn|ZnSO4aq|CuSO4aq|Cu(+)
起電力は1.1Vです。
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どちらも金属ですから、酸液に入れるとイオン化しようとします。しかしイオン化傾向の差によって亜鉛はイオン化しますが、銅はイオン化できません。
亜鉛板は自由にイオン化します。
Zn→Zn2++2e  酸化反応
亜鉛板が溶けてイオンになると、亜鉛イオンZn2+は電解液中に溶け込みます。すると極板には電子がたまるので、電子過剰となって電位が低くなります。ですから亜鉛板は負極になります。
銅板は相対的に電位が高くなるので、銅板は正極になります。

負極から送られた電子は、正極の銅板までやってきます。この電子は消費されなければならないのですが、銅は金属ですから、単体の銅が電子をもらって陰イオンになることは決してありません。 すると銅板自身が電子を使わないので、銅板がマイナスに帯電します。すると溶液中の陽イオンが引き寄せられてきます。

と、ここまではボルタ電池と同じなのですが、ここで引き寄せられる陽イオンが水素イオンではなく銅イオンなので銅板に銅の単体が析出します。
Cu2++2e→Cu  還元反応

結果的に、ダニエル電池ではこのような電子の移動が行われています。
負極 : Zn→Zn2++2e
正極 : Cu2++2e→Cu
全体 : Zn+Cu2+→Zn2++Cu



溶液の濃度をわずかに変えるだけで、ダニエル電池を少しだけ長持ちさせ、起電力を少しだけ上げることが出来ます。
負極では、亜鉛の単体がイオン化する反応が起きているので、負極の電解液の濃度は薄いほうがイオン化しやすいですね。
反対に正極では、電解液のCu2+イオンが単体になって析出していく反応が起きているので、もし電解液の中からCu2+イオンがなくなれば反応は終わりです。なので、正極の電解液の濃度は濃いほうが長持ちで反応が進みやすいですね。


素焼き板の役割は?

素焼き板の代わりに、セロファンのような半透膜、後で紹介する塩橋というものを使うこともありますが、役割はどれも同じで「電解液の混合を防ぎながら、イオンの交換をする」ことにあります。



導線を伝って負極から正極へと電子e-が移動していますが、これだけでは回路を成しません。
よく電池の模式図では左図のような図が描かれますが、実際には水溶液中を通って電子の流れが一周する右図ようになっているはずです。どこかで絶縁されると、電流は流れませんね。


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そのため、電解液の中で正極から負極に向かう電子の流れがないと電池として成り立ちません。
素焼き板は微小な穴がたくさん空いている(多孔質)なので、水は通しませんが、イオンなど積極的に通過しようとする物質は通ります。
負極側で亜鉛がイオン化して電子が外に抜かれ、溶液が少し電子不足になると、正極側から陰イオンのSO42-が引き寄せられます。
逆に正極側で電子が与えられて銅が析出し、溶液が少し電子過剰になると、正極側から陰イオンのZn2+が引き寄せられます。
そのようなイオン交換があって、初めて電子がぐるっと一周する回路が完成します。



では、最初から仕切りなんてない状態にしておくとどうなるでしょうか?


1.電解液にZnSO4を用いたとき

これは分かるでしょうか。
まず、負極では難なく亜鉛が溶けます。ここまでは良いですね。
しかし、正極では?銅イオンがないので反応は起こりませんね。
そうすると水の中にわずかに存在する水素イオンを用いて反応するしかありませんが、水素が発生してはダニエル電池の意味がありません。


2.電解液にCuSO4を用いたとき

こんどは正極での反応はきちんと行われます。
正極でも亜鉛はイオン化していきますが、水溶液中に銅イオンがあるので亜鉛板が銅メッキされてしまいます。

Zn+Cu2+→Zn2++Cu   (負極の亜鉛板上にて)
これでは何をしているんだか分かりません。反応が進むにつれて亜鉛板がどんどん銅メッキされて、しまいには完全に銅に覆われてしまいます。これだと正極とのイオン化傾向の差なんてありませんから、反応は終わりです。


このようにダニエル電池では、「電解液が2つの部屋に分かれていて、しかも陽イオンは極板と同じ元素のイオン」ということが重要であると分かったと思います。

一般に、ある金属そのイオンでつくられる電池半電池といいます。


塩橋とは?

塩橋とは、2つの半電池が混合しないようにしつつ、両液を電気的につなぐものです。基本的には素焼き板と変わりません。


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ちょっと線が入ってしまいましたが、2つの半電池をつないでいるのが塩橋です。
塩橋はU字管にKClやKNO3などの塩の濃厚水溶液を満たしてゼラチンや寒天で固めたりしたもので、2つの半電池の間をつなぐように用います。
負極側の溶液が少し電子不足になると、塩橋から陰イオンのNO3-やClが引き寄せられます。逆に正極側で溶液が少し電子過剰になると、塩橋から陽イオンのK+が引き寄せられます。
この塩橋も長く使用するとイオン濃度が薄まるので、新しい塩橋に換える必要があります。