希硫酸の溶液に亜鉛板と銅板を入れて、導線でつないだ電池です。ボルタ電池の構成は次のように表されます。
(−)Zn|H2SO4aq|Cu(+)
イオン化傾向はZn>H2>Cuとなっています。起電力は1.1Vです。
どちらも金属ですから、酸液に入れるとイオン化しようとします。しかしイオン化傾向の差によって亜鉛はイオン化しますが、銅はイオン化できません。
亜鉛板は自由にイオン化します。
Zn→Zn2++2e−
亜鉛板が溶けてイオンになると、亜鉛イオンZn2+は電解液中に溶け込みます。すると極板には電子がたまるので、電子過剰となって電位が低くなります。ですから亜鉛板は負極になります。銅板は相対的に電位が高くなるので、銅板は正極になります。
負極から送られた電子は、正極の銅板までやってきます。この電子は消費されなければならないのですが、銅は金属ですから、単体の銅が電子をもらって陰イオンになることは決してありません。 すると銅板自身が電子を使わないので、銅板がマイナスに帯電します。すると溶液中の陽イオンが引き寄せられてきます。
ボルタ電池では、水素イオンH+が集まってきます。すると水素イオンは電子を受け取って単体の水素になります。
2H++2e−→H2
ボルタ電池ではこのような電子の移動が行われています。負極と正極の反応を並べてみます。
負極 : Zn→Zn2++2e−
正極 : 2H++2e−→H2
ここで注意すべきは、銅板そのものは単なる受け渡し場所として使われていることです。確かに反応式中に銅は出てきませんね。
正極 : 2H++2e−→H2
このようにして出来た電池の極板・電解液などの構成を、次のように書くことが多いです。これを電池式といいます。ボルタ電池の構成は次のように表されます。
(−)Zn|H2SO4|Cu(+)
ボルタ電池の分極
このボルタ電池は、実用にはほど遠い電池で、極板を浸してから1秒くらいすると電圧が落ちます。これは、放電時にできた水素の泡や亜鉛イオンが放電を邪魔するためにおきます。
このように、放電によって極板に生じた物質による起電力低下を「電池の分極」といいます。
分極の原因を書いてみます。
- 銅板に付着した水素の泡は電気を導きにくいため、正極での反応を邪魔する
- 水素の泡が銅板の表面で勝手にイオン化(←本来とは逆反応!)して邪魔する
- 亜鉛板の近くではZn2+イオンの濃度が濃くなり、溶けにくくなる
- 導線につながれていようがつながれていまいが、亜鉛は勝手に溶ける
順に説明します。
1.銅板に付着した水素の泡は、電気を導きにくいため、正極での反応を邪魔する
水素の泡が銅板を覆ってしまうと、銅板は電解液と触れる面積が減ります。このため、正極では水素イオンが電子を受け取れなくなります。正極の物質は還元剤としてはたらきますが、還元剤は、電子を受け取ってくれる物質が存在しない限りは電子を放出せず、酸化還元反応をしません。そのため、導線には電子が流れません。
2.水素の泡が、銅板の表面で勝手にイオン化して邪魔する
水素は銅よりイオン化傾向が大きいんです。そのため、銅板に触れている水素の泡が勝手にイオン化します。
H2→2H++2e−
これって本来の反応とは逆ですよね?このようにして、負極から正極への電子の流れを妨げます。これらの原因はすべて水素の泡にあるのですが、この水素を酸化してH2Oとして電解液に戻してやれば解決します。
このように、水素など電池の邪魔をする物質を取り除いて分極を防ぐために加えられる酸化剤を減極剤といいます。減極剤には、過酸化水素H2O2や二クロム酸カリウムK2Cr2O7が、よく用いられます。減極剤を加えると、発生した水素が即座に水になり、分極は抑えられます。
これで1.2.の問題はある程度解決されます。しかし、次の3.4.に関しては解決が難しいのです。そのため、ボルタ電池は実用化にいたりませんでした。
3.亜鉛板の近くではZn2+イオンの濃度が濃くなり、溶けにくくなる
ボルタ電池の負極にZn2+イオンがたまってしまうと、亜鉛のイオン化が妨げられます。極端な話をすれば、もし飽和水溶液になってしまえばもう反応は起こりません。解決法としては、電解液をかき混ぜたり、電解液をマメに交換することです。
しかし4.の問題は、当時の技術では解決不可能でした。
4.導線につながれていようがつながれていまいが、亜鉛は勝手に溶ける
亜鉛を酸の水溶液に入れているので、次の反応は勝手に起きます。
Zn+2H+→Zn2++H2↑
問題は何かというと、ここでやり取りされた電子は水素イオンに直接渡されるため、電子が導線を通らないので電気エネルギーを拾えません。もちろん、放電しているかどうかは関係ありません。このように、放電していないにもかかわらず、極板が勝手に反応して電池が消耗してゆく現象を自己放電といいます。現在では極板に工夫を凝らし、自己放電ができるだけ起きないように工夫されています。