化学魔の還元

電池電解編7.電気分解とは

今度は逆に、電流を使って酸化還元反応を起こします。

川の流れのように

電池電解編の最初で「電池とは化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置」と書きましたが、電気分解はその反対の操作になります。一般に電池の放電と電気分解とは逆反応の関係にあります。
つまり、電気分解とは電気エネルギーを用いて化学反応強制的に起こすという操作です。ですから自然には決して起こりえない反応も人工的に起こすことが出来ます。

例えば、硝酸銀AgNO3と塩酸HClを混合すると、塩化銀AgClの白色沈殿が生じます。

Ag++Cl-→AgCl↓  ・・・A
しかし、塩化銀を放置してAgとCl2に分解するということはありえませんね。不自然な反応ということです。
2AgCl→2Ag↓+Cl2↑???  ・・・B

Bの反応は、川の水が下流から上流へ逆流していくようなものですね。エネルギーの流れがおかしいんです。
Aの反応が起こるということは、Ag+とCl-化学反応を起こす能力を持っているということです。(この能力を化学エネルギーといいます)
反応時に化学エネルギーは失ってしまいます。
川の水に喩えれば、高いところにある水が低いところに落ちるのは当然のことです。下に落ちてしまった水は、それ以上落ちることはありません。(つまり位置エネルギーを失っています。)

Bの反応はその逆です。何もしないのに化学エネルギーを得ているのはおかしいですね。
川の水に喩えれば、低いところにある水がいきなり高い場所に移るという現象です。おかしいですね。

しかし、水が低いところから高いところへ動くのは不可能なことなのかというと、そうではないですね。コップか何かに水を入れて、手で持って高く上げればいいのです。
同じように、塩化銀にエネルギーを与えてやれば、元の塩素と銀に戻ります。

このようにして「電気エネルギーを用いて化学反応を強制的に起こす」という操作を行うのが電気分解です。
電気分解の発明によって、水から水素を得る、金属酸化物から金属の単体を得るなど、それまでは困難・もしくは不可能であった反応ができるようになりました。


電気分解の原理


注意すべきは、電気分解は電池の逆反応であるということです。このことを少し意識しながら読んでいってください。

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まずは、陰極と陽極の定義を書きます。
陰極: 電子をもらう極
陽極: 電子を抜かれる極
右の極板は電池の負極に接続されています。すると極板には電子がたまるので、右の極板は陰極になります。

反対に、極板は電池の正極に接続されています。左の極板は陽極になります。

負極につなぐ⇒ 電子過剰 ⇔ 陰極
正極につなぐ⇒ 電子不足 ⇔ 陽極

そして陽極・陰極とは何かというと、電子が外部から供給されたり抜かれたりして「酸化反応」と「還元反応」が別々に行われている場所だということができます。陽極陰極とそこで起きている反応との対応は必ずつかんでください。

まず陰極の方から考えてみます。陰極は電池から電子をもらう方ですね。
さて、電子をもらう方、つまり左辺に電子があるほうは酸化剤・還元剤のどちらでしょうか?これは酸化剤になりますね。
つまり陰極には酸化剤がくるんです。
すると酸化剤の立場に立ってみると、電子をもらうので還元されていますね。つまり陰極では還元反応が起こっています。

今度は陽極の方を考えて見ます。陽極は電子を抜かれる方ですね。
電子を抜かれる方、つまり右辺に電子があるほうは還元剤です。
つまり陽極には還元剤がくるんです。
すると還元剤の立場に立ってみると、電子を奪われるので酸化されています。つまり陽極では酸化反応が起こっています。


これをまとめてみます。

陰極⇔電子をもらう⇔酸化剤⇔(自分の酸化数高→低、相手の酸化数低→高)⇔極板で還元反応
陽極⇔電子を失う⇔還元剤⇔(自分の酸化数低→高、相手の酸化数高→低)⇔極板で酸化反応

この2つのことは、電気分解の反応を考える上で最も重要なことです。
ややこしいですが、電気分解の場合はもっと簡単に考えることが出来ますね。

水溶液に電圧をかけると、下の図のように電極にイオンが集まってきますね。
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陽極はプラスに帯電しているから陰イオンが集まり、
陰極はマイナスに帯電しているので陽イオンが集まります。

集まったイオンが次の章で紹介するルールに従って反応を起こして、基本的には単体になります。
このことを押さえておけば、陰極と陽極の区別はつくと思います。