電子の受け渡しをどう捉えるか
もう一度、3つの定義を見てみましょう。
酸素の授受による定義
酸化:酸素を受け取ること
還元:酸素を奪われること
水素の授受による定義
酸化:水素を奪われること
還元:水素を受け取ること
電子の授受による定義
酸化:電子を奪われること
還元:電子を受け取ること
受け取るのか、奪われるのか、そこをきっちり押さえてください。
最終的に電子の授受が酸化還元の本質という結論に至ったわけですが、では酸素や水素による定義は不要かというと、そうではありません。
このように考えてみましょう。酸素がくっつくと、相手の電子を奪って相手は酸化されます。逆に水素がくっつくと、相手に電子を供給するので、相手は還元されます。つまり、酸素は相手を酸化する作用を持っており、水素は相手を還元する作用を持っています。
こう考えると便利なことに気付きます。今までは、反応を見てから「これは酸化されている」「これは還元されている」という風に判断するだけでしたが、こう考えると「ああ、酸素を使えば相手は必ず酸化されるぞ」ということが予測できるようになります。逆に、水素を使えば相手は還元されるな、ということが前もってわかります。
これが、酸化剤・還元剤という考え方です。
酸化剤:相手を酸化する作用をもつ物質
還元剤:相手を還元する作用をもつ物質
つまり酸素は酸化剤で、水素は還元剤です。
さまざまな酸化剤・還元剤
ですが、こういった物質は酸素や水素に限らずたくさんあるんですね。列挙してみましょう。
硝酸 HNO3(濃硝酸・希硝酸どちらも)
硫酸 H2SO4(濃硫酸を加熱した時のみ強い酸化作用を示す)
ハロゲン単体 F2 Cl2 Br2 I2
酸素 O2
過マンガン酸カリウム KMnO4
二クロム酸カリウム K2Cr2O7
過酸化水素 H2O2
還元剤の例
金属単体 K Ca Fe Cu…
硫化水素 H2S
二酸化硫黄 SO2
ハロゲンイオン Cl- Br- I-(フッ素は全元素の中で最も電気陰性度が大きいので、還元剤(電子を渡す役)としては働かない)
これらの物質は、酸化作用を示すのか還元作用を示すのかだいたい決まっています。
そして酸化剤と還元剤が出会うと、物質間で電子のやりとりを行います。これが酸化還元反応です。
酸化還元反応と酸塩基反応
このように電子の「受け渡し」が酸化還元反応なんだと考えると、酸塩基反応と似ていますね。比較してみましょう。
反応の主体 | 反応の本質 | 放出する側 | 受け取る側 | |
---|---|---|---|---|
酸塩基反応 | 水素イオンH+ | H+の授受 | 酸 | 塩基 |
酸化還元反応 | 電子e- | e-の授受 | 還元剤 | 酸化剤 |
これも単なる授受関係でしかないのです。なので、酸塩基反応のことを思い出せばもっと楽に考えられると思います。
例えば酸塩基反応では電離の式というのがあって酸や塩基がどのように水素イオンをやりとりするかを示していましたが、酸化還元反応にも同じような式があります。それが半反応式と呼ばれるものです。この半反応式に苦手意識を感じている人も多いと思いますが、実際には電離の式と似たようなものなんです。