化学魔の還元

酸化還元編1.酸化・還元とは?

巧いこと考えた人に乗っかるのが得策です。

まずは中学の復習でも

中学3年生の理科一分野では、酸化還元反応という言葉が出てきます。ここでの酸化・還元の定義はこのようなものでした。

酸化
物質が酸化されるとは、その物質が反応して、酸素を受け取ること。
還元
物質が還元されるとは、その物質が反応して、酸素を奪われること。

たとえば、次のように銅が酸素と化合する反応を「銅が酸化されて酸化銅になる反応」として紹介されていたと思います。

2Cu+O2→2CuO
銅の酸化

また、次のような酸化銅と水素との反応を「酸化銅が還元されて銅になる反応」として解説されたと思います。

CuO+H2→Cu+H2O
酸化銅の還元

そして酸化と還元は同時に起こるという性質を酸化還元の同時性とかいう用語として覚えた記憶があると思います。

しかしこれだけでは説明できない化学現象はいくらでもあったわけです。そこで定義を拡大するわけですね。酸塩基反応と同じ流れです。

水素のやり取りによる定義

先ほどの酸化銅と水素との反応をもう一度見てみましょう。

CuO+H2→Cu+H2O
酸化銅の還元(再掲)

これを見ると、銅は酸素を奪われているので還元されていて、水素は酸素をもらっているので酸化されています。これは酸素に着目した考え方ですが、逆に水素の力によって酸化銅は還元されたという考え方も可能です。つまり水素は相手を還元する作用を持っているといえます。

また、次の2つの反応を比べてみましょう。

S+O2→SO2
硫黄の酸化
2H2S+O2→2S+2H2O
ryuukasuiso.gif(2370 byte)

上の反応では、硫黄と酸素が化合して二酸化硫黄になりました。これは硫黄が酸化されたといっていいでしょう。

では下の反応はどうでしょうか?硫化水素と酸素が反応して酸素が水素を奪っていきました。酸素がくっついたわけではありませんが、でも酸素が作用したんだから酸化還元反応の仲間に入れたいですね。

ここで発想を転換しましょう。水素は相手を還元する作用を持っているとすると、酸素は硫化水素によって還元されたといえます。逆に硫化水素は、水素を奪われたので酸化されたといえるのです。

このように水素を中心にした酸化還元の定義もできそうです。これは特に、水素がよく出てくる有機化学で有用です。

酸化
物質が酸化されるとは、その物質が反応して、水素を奪われること。
還元
物質が還元されるとは、その物質が反応して、水素を受け取ること。

酸素とは逆の関係ですね。この定義の場合、次の反応が理解できるかどうかがポイントです。

CuO+H2→Cu+H2O

さっきまで「酸素が奪われたら還元」という定義で来ましたが、この反応をもう一度見て「水素がくっついたら還元」という表現もしっくりくるようになればOKです。

電子のやり取りによる定義

これまで酸素と水素による定義をしてきましたが、まだまだこれだけでは狭いですね。酸素や水素の絡まない反応にはまだ対応できません。そこで酸素や水素の出入りの時に何が起きているのかということを突き詰めて考えていく必要があります。

ここは答えを先にバラしてしまいましょう。実は酸素は電子を奪い取り、水素は電子を与えるはたらきをしているのです。

ヒントは電気陰性度です。これは電子を引き付ける強さの度合いでしたね。周期表で右ほど強く、左ほど小さいのでした。

電気陰性度について復習しましょう。非金属元素と非金属元素は、不対電子を出し合って共有結合をするのでした。原子核は当然プラスに帯電しているので、電子を引き付ける力を持っているのですが、しかし共有といっても元素間に力関係があるので共有電子対は対等に引き合っているわけではないのです。その力関係の尺度が電気陰性度です。

また水素は非金属の中で一番電気陰性度が小さく、酸素は非金属の中で二番目に大きい元素です。これを踏まえると、

酸素をもらう:強い酸素に自分が出した分の電子を取られる

酸素をわたす:強い酸素に取られていた電子が返ってくる

水素をもらう:弱い水素の持っている電子がもらえる

水素をわたす:弱い水素から奪っていた電子を返さなければならない

という現象が起きます。

ここでは共有結合について考察しましたが、イオン結合の場合は考えるまでもないですね。これは金属が電子を放出し、非金属が電子を奪っている関係なのですから。

以上を踏まえると、酸化還元反応の本質は電子のやり取りにあったということです。そこで、酸化還元の定義を次のように書くことができます。

酸化
物質が酸化されるとは、その物質が電子を奪われること。
還元
物質が還元されるとは、その物質が電子を受け取ること。

この定義が高校化学での一般的な定義になります。定義なので、これは受け入れるしかありません。先人が試行錯誤した末に、一番便利だと認められたものがこれです。今は先人の苦労をもう一度味わう必要はありません。もちろん、化学が好きな人はもっと深い考察をしてみたらいいと思います。

さて、この観点からもう一度反応を見直してみましょう。まずは銅が酸素と化合する反応です。

2Cu+O2→2CuO
銅の酸化(再掲)

銅と酸素の両方の立場に立って考えてみましょう。


金属は原子がたくさん集まって電子を全体で共有する金属結合 金属単体は一般に電気陰性度が低い







CuO+H2→Cu+H2O
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酸素は一旦銅に電子を返して、水素に飛びつきます。