化学魔の還元

熱化学編2.熱化学方程式

さて、先ほどのエネルギー準位図で、「分数付きの化学式」が出て参りましたが、今からその説明をします。

まず鉄粉が酸素や水と化合して水酸化鉄(V)になる反応の化学反応式は次のようになります。

4Fe+3O2+6H2O→4 Fe(OH)3
この化学反応式では各物質間の量的関係(たとえば鉄と酸素と水は4:3:6で反応する、など)は分かりますが、熱の出入りについては全く何も書いていません。
そこで熱の出入りを表す式、熱化学方程式が登場します。

Fe+3/4O2(気)+3/2H2O=Fe(OH)3+402kJ

このように化学反応式の中に反応熱を書き加え、さらに両辺を矢印→でなく等号=で結んだ式を熱化学方程式といいます。
熱化学方程式は単なる化学反応式ではなく、エネルギーに関する等式です。化学式も単に物質の種類を表しているだけではなく、その物質1molのもつエネルギー量も表しています。またこれは「方程式」ですから、ある程度の演算が可能なんですね。このことは後々役に立ちます。

この熱化学方程式を書くときにもいくつかのルールがあります。これに従って、方程式を書いてください。

@物質1molについての値であるから、注目する物質が1molとなるように係数を書きかえる。この時に、係数が分数になってもよい
A反応熱は物質の状態によっても変わってくるから、化学式の後に物質の状態を必要に応じて付記する
B式の右辺に反応熱を書き加え、発熱反応は+、吸熱反応は−をつけて表す
C両辺を等号=で結ぶ


実際に手順を踏みながら解説します。「水素1molが燃焼して水が生成すると286kJの熱が発生する」という反応を熱化学方程式で表します。

2H2+O2→2H2O

@ここで注目する物質を考えます。今考えているのは、水素1molが燃焼する時の式ですから、注目する物質は水素ですね。ですから水素の係数が1になるように係数を設定します。

H2+1/2O2→H2O
A次に物質の状態を考えます。特に明記されていない場合は、25℃・1×105Paにおける状態を付記します。H2・O2は25℃において気体ですから(気)、H2Oは液体にも気体にもなりうるのですが、普通は液体の水になりますので(液)を付記します。
H2(気)+1/2O2(気)→H2O(液)
B反応熱を書き加えます。ここでは286kJの発熱があるので、+286kJを加えます。
H2(気)+1/2O2(気)→H2O(液)+286kJ
C矢印→を等号=に変えます。
H2(気)+1/2O2(気)=H2O(液)+286kJ
これで完成です。

*補足*
@注目する物質が変わると反応熱も変わります。
化学反応式における係数は単に比を表すもの(水素と酸素は2:1で化合する、など)ですが、熱化学方程式の係数はそのまま物質量を表します。
つまり、「O2(気)」は気体のO21molを表し、H2O(液)とは液体の水1molを表すものです。
ですからうっかり、

×・・・2H2(気)+O2(気)=2H2O(液)+286kJ
と書いてしまうと、2molのH2と1molのO2が反応する時に286kJの熱が出るという意味になってしまい、間違った式となってしまいます。もし1molのO2に着目した式を作るなら、286kJの2倍の熱が発生するはずですね。
A25℃1×10Paにおける状態を書きます。H2Oに関しては、(固)か(液)か(気)を明記しなければなりません。特に何も書いていない時は液体の水になります。
また、単体に同素体がある場合も、その同素体を明記します。
炭素Cの場合、普通はC(固)では駄目で、C(黒鉛)やC(ダイヤモンド)のように書きます。同様にリンPは、P(赤リン)やP(黄リン)と明記します。
特に何も書いていない時は、C(黒鉛)、P(赤リン)となります。