さて、いよいよ具体的な反応を見ていくことにします。まずは教科書でも有機編の最初に出てくる「アルカンのハロゲン化」から話を進めていきます。
メタンのクロロ化
メタンは塩素と混合して光を当てると、クロロメタンCH3Clを生じる。CH4+Cl2 → CH3Cl+HCl
教科書には↑このように書かれていますが、順を追ってこの反応をさらに詳しく書いてみます。
連鎖開始反応
Cl2 → 2Cl・ …@
まず塩素に光があたります。Cl−Cl結合の結合エネルギーは比較的小さいので、光で切ることが出来ます。このときに塩素ラジカルが生成します。
ここから連鎖反応が始まります。ただ、これはあまり重要ではありません。これは時々起きてくれたら良いんです。
連鎖成長反応
CH4+Cl・→CH3・+HCl …A
Cl2+CH3・→Cl・+CH3Cl …B
などなど
Aでは、塩素ラジカルがメタンとぶつかったときの反応です。ラジカルはとにかく電子がほしいので、メタンから水素を原子状態で引き抜いて自分のものにします。すると今度はメタンのほうが水素と電子を奪われてメチルラジカルになります。
Bはそのメチルラジカルが塩素分子とぶつかった時の反応です。同様にして水素を原子状態で奪い取ります。
要はメタンと塩素で水素の取り合いをしているわけですね。その結果、クロロメタンが生じます。
このようにしてAとBが交互に繰り返されます。このように繰り返される反応を連鎖反応といいます。
では、始まったら永遠に終わらないのかというとそうではなくて、ラジカルの割合が増えてくるとラジカル同士の衝突も増えてくるわけです。
連鎖停止反応
CH3・+Cl・→CH3Cl …C
Cl・+Cl・→Cl2 …D
CH3・+CH3・→C2H6 …E
などなど
このようにラジカル同士の反応をすると、互いに満足するので反応は停止します。
まぁエタンが出来る反応なんかはほとんど無視できます。多くの分子はBCの反応で出来るクロロメタンとAで出来る塩化水素になります。その割合は、最初のメタンと塩素の割合でほとんど決まります。
ただ、全部が全部というわけじゃないんですね。これは有機反応全体において言える事ですが、化学反応式通りに定量的な反応が起きるわけではありません。あくまでも主反応・主生成物であるということを頭の片隅に入れておいてください。
ちなみに、化学反応式に表せない反応も起きています。
たとえば、ラジカルが空気中のチリやホコリとぶつかっても反応しますし、試験管などにぶつかっても試験管と反応します。ただ、相手はチリホコリや試験管なのに、自分は分子レベルの大きさしかないから、相手がラジカルになって・・・とかは考えなくてもいいですね。というか、試験管ラジカルとかあったらかなり怖いな。
このように、ラジカルが発生してHがClに置換されているので、この反応はラジカル置換反応といいます。
反応後に塩素ガスをさらに加えて光に当てたり、最初の時点で塩素が多く含まれていると、さらに反応が進んで他置換体が生成します。
CH4 ⇒ CH3Cl ⇒ CH2Cl2 ⇒ CHCl3 ⇒ CCl4 メタン クロロメタン ジクロロメタン トリクロロメタン テトラクロロメタン 塩化メチル 塩化メチレン クロロホルム 四塩化炭素この反応は段階的に起きます。メタンに塩素を入れていきなりジクロロメタンが発生することなどは無いです。
よく次のような反応式を書いてしまう間違いが起きます。
×・・・ CH4+Cl2 → CH2Cl2+H2 ・・・×
これは、先ほどのラジカル置換反応の機構をみれば分かりますね。水素原子は塩素ラジカルやメチルラジカルなどの間でやり取りされるので、決して水素分子は出来ません。
クロロメタンからジクロロメタンが出来る時は、次のような反応が起きるためです。
Cl2+CH2Cl・→Cl・+CH2Cl2 …F(連鎖成長反応)
CH2Cl・+Cl・→CH2Cl2 …G(連鎖停止反応)
つまりクロロメタンあってのジクロロメタンですから、段階的に反応が進んでゆくのもわかりますね。