化学魔の還元

物質量編2.原子量・分子量・式量

重さから粒子数を計算するのだから”1つぶあたりの重さ”ってのが後で必要になります。

原子量

molの目的は、物質の重さから個数を求めることだといいました。そのためいくつかのステップを踏まなくてはいけないのですが、後々で、物質を構成している原子どうしの質量比が必要になります。これが原子量です。

比ですから基準が必要です。ある原子の重さを基準にして「この原子は基準原子の何倍の重さか?」を考えればいいわけですね。普通の感覚なら、一番軽い元素である水素を基準に考えます。

ですが、いろいろあってそうではないんですよ。(詳しくは原子量基準の移り変わりを見てください)現在は、12Cという原子を基準にしています。

原子の原子量
ある原子の原子量とは、その原子が12C原子の重さの何倍なのかを考えたあと、その値を12倍したもの

12C原子が基準ですから"12C原子の重さの何倍なのか"というのが重要なのは分かると思います。ですが、その値をさらに12倍したものを原子量と決めています。これは原子量を質量数に近付けるため、特に1H原子の原子量を1に近付けるためです。

16Oという原子の質量は12C原子の質量の4/3である。その値を12倍したら16になる。だから16Oという原子の原子量は16である。これは質量数と一致していて便利だ。

2H(一般には重水素と呼ばれる)という原子の質量は12C原子の質量の1/6である。その値を12倍したら2になる。だから2Hという原子の原子量は2である。これも質量数と一致していて便利だ。

この原子量というのは比の値ですから、原子量には単位がないということに気をつけなければいけません。ちなみに単位のない数を無名数といいます。

元素の原子量

前節では原子の原子量を求めました。この方法では、同じ元素でも重さの違う同位体を別々に計算することになります。しかし化学においては16Oも17Oも18Oも全部おなじ性質をもった”酸素原子”であって、区別するのが邪魔くさいわけです。そこで、これらの同位体をすべてひっくるめて考えましょうというのが元素の原子量なのです。

元素の原子量
ある元素の原子量とは、その元素の原子を無作為にひとつだけ取り出した時、その取り出した原子の原子量の期待値
「同位体原子の原子量×天然存在比」を足し合わせればよい

定義文は難しく書いてしまいましたが、次の二枚の絵を見て理解してください。これは窒素原子の場合で考えています。窒素原子には14N・15Nという2種類の同位体原子が存在しますが、自然界に存在する窒素原子のうち99.6%以上が14Nなんですね。

窒素原子のほとんどは14Nだが、微量の15Nも含まれている。

これをいちいち区別するのは面倒なので、この二つの原子を996:4の比率でミックスした「窒素原子」というのを考えた方が楽です。

そこで、14Nと15Nを、996:4の比率で混ぜた仮想の原子を考えればよい。

このミックス窒素原子の原子量を考えます。重さ14の原子が99.6%で、重さ15の原子が0.4%なので、14×0.996+15×0.004≒14.01が「窒素の原子量」となります。

塩素の原子量

塩素原子には35Clと37Clの二種類が存在する。今回はもっと正確なデータを使って塩素の原子量を有効数字4桁(小数第二位まで)で求めてもらいたい。

原子 原子量 天然存在比
35Cl 34.969 75.77
37Cl 36.966 24.23

分子量

次に、分子の重さも調べてみましょう。原子量と同様に12C原子を基準にして「この分子は基準原子の何倍の重さか?」を考えるのが分子量です。

分子量
ある分子の分子量とは、その分子が12C原子の重さの何倍なのかを考えたあと、その値を12倍したもの
その分子を構成している原子の原子量を全部足してやることで、分子量を求めることができる

定義文にも書きましたが、分子量を求めるには分子を構成する原子の重さを足し合わせればOKです。

H2Oという分子は、H原子が2つと、O原子1つでできている。だからH2Oの分子量は1×2+16×1=18となる。

CO2という分子は、C原子が1つと、O原子2つでできている。だからCO2の分子量は12×1+16×2=44となる。

上の例のように、単に原子量を足してやるだけです。このとき、原子量を知らないと当然分子量も計算できないのですが、原子量の値は覚える必要がないです。学校や入試の問題で分子量を求める必要がある時は、問題文に必ず「原子量はこの値を使うように」と明記されているはずです。というのも、原子量は整数の値を使うのか?それとも4桁の詳しい値を使うのか?によって答えが違うわけですから。

また、この分子量も比の値ですから、分子量も無名数です。

式量

すべての物質が分子を作っているわけではありません。たとえば塩化ナトリウムNaClというのは、NaとClが交互にたくさん並んでできています。塩化カルシウムCaCl2の場合は、CaとClが1:2の割合で並んでいます。

こういう物質の場合、分子のように明確な"1つぶ"という概念は存在しません。ですが、こういう物質の重さもちゃんと比べたいわけです。こういう場合、化学式に書かれている原子の原子量を足し合わせてやることにします。これを式量といいます。

式量
ある物質の式量とは、その物質を表す化学式に含まれている原子の原子量を全部足した値

たとえば塩化ナトリウムなら、塩素の原子量とナトリウムの原子量を足した値を求めればOKです。意味的には、Na1個とCl1個だけがくっついた「最小の塩化ナトリウムの重さ」を考えたわけですね。

NaClという物質の式量は、35.5+23=58.5となる。

CaCl2という物質の式量は、40+35.5×2=111となる。

Cl-という単原子イオンの式量は、原子量と同じ35.5となる。

SO42-という多原子イオンの式量は、電子を無視して32+16×4=96となる。

上の例のように、単に原子量を足してやるだけです。電子の質量は陽子の1840分の1しかないので無いのと同じですから、イオンの場合も原子量を足してやるだけです。

また、この式量もやはり比の値ですから、式量も無名数です。